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ブリーダー(1)

「今日は外に出かけよう。1時間で迎えに行く。」
彼からの指示があったのが15時。
半月ぶりの逢瀬にも感傷に浸る暇はなかった。
慌てて支度しなければ。
バスルームに飛び込み、ヘアのチェック。
彼との契りを交わした折、全て剃りあげられたあそこの毛もうっすら生え揃えている。

何を着ていこうかな。
決め手となる基準はただ一点。
彼に喜んでもらえる恰好だけである。
あの日から何度も女としてと言うより、雌としての扱いを受けてきた。
私自身、この数か月ですっかり雌として、性奴としての自覚が芽生えていた。
約束の16時を5分過ぎたころ、私の携帯短く唸った。
春らしい薄いピンクのワンピースにカーデガンを纏い、下着と同色のヒールを選ぶ。
辺りを気にしながら、エレベーターに乗り込む。
淡い色のサングラスに大きなマスク。
ヒールのおかげで、一般的な女性よりも大きく見えるが、すれ違っただけではまず正体はばれないだけの自信はあった。
それでも足早に駆けているのは恥ずかしさよりも嬉しい気持ちからだった。
エントランスを抜けると大きなバンが停まっていた。
運転席には見覚えのある人影。
私は躊躇うことなくドアを開け、助手席に滑り込む。

「車、いつものと違いますね。」
はやる気持ちを見透かされないよう、努めて普通に話しかけた。
「いい天気だな。元気だったか。」
ゆっくりと本通りに向けて車は走り出す。
陽気と車内の暖房のせいで、すこし汗ばむ。
私が暑いと言い出す前に、ウインドーが少し開いた。
「仕事に使ってる車だよ。」
私は彼のフルネームも、年齢も、住所も、もちろん職業も知らない。
当然、彼も私のそれを知らない。
そういう取り決めもしてあったし、それに不服もない。
車の中を見回しても、情報につながるようなものは一切なかった。
別に知りたくはないけど。
私は心の中でつぶやいて、居心地の悪さと小さな不安を感じていた。

走り始めて30分程経った時、唐突に紙袋が渡された。
「それ、今日はそれつけて。」
可愛いわんことにゃんこのイラスト描かれた紙袋。
中には真っ赤な首輪が入っていた。
今日はこれを付けてお散歩か・・・
私は以前、彼と歩いた公園を思い出していた。
今日もヒールを履いていた。
男としては普通の体躯でも、女性とすれば、少々規格から外れている。
ましてヒールを履くとなると、180センチは下らない。
私は彼の後ろを文字道理、三歩下がって歩いていた。
そんな私の手を引いて、並んで歩いてくれた彼には正直、胸がときめいた。
昼間でも人気のないさみしい公園。遊歩道が樹木の間を縫うように走っている。
私はそんな彼の優しさに甘えるように腕を組み歩いた。
車も多分そこへ向かっていると思われた。

露出調教には丁度いい公園だと認識していた。
しかし・・・あの公園にはもう一つの顔がある。
人気のないさみしい公園には、それが丁度いいと考える人種が私たちのほかにもう一種類いたのだった。

大型犬用にしては無骨感は全くなく、どちらかと言えば可愛い気もするその首輪を私は自分で自分の首につけた。
真っ赤な革の首輪。
雌化した私にはよくお似合いだろう。
リードを付けられて歩く姿を想像するだけで頭が痺れた。
「服は脱いでおきなさい。下着だけでいい。」
そういいながら彼はベンチコートを渡してくれた。
「寒いから、これを羽織ってなさい。」
私は言われた通りの恰好をした。
偶然にも、首輪と同じ真っ赤なランジェリー。赤いヒール。
「赤備えだな。」
そう言ってほほ笑む彼だが、なぜだか優しさは消えていた。

公園の駐車場に車を停めると、彼は脇にある公衆トイレへ向かった。もちろん私も。

小用便器の前に立つ彼。
私はズボンのファスナーに手をかける。
彼のペ〇スを取り出すと、優しく手を添える。
「どうぞ、ご準備できました。」
暖かい蒸気が頬を撫でる。
満足そうにしている彼を見上げ、仕上げにかかる。
軽く扱きあげ、亀頭を口に含む。
ありがとうと言って頭をポンと撫でられる。
まるで小さな子にお手伝いを褒めてあげたかのように。
私も素直に嬉しいと感じた。

「さあ、行こうか。」
彼が私の首輪に繋がれたリードの先を掌にくるくると巻き付けた。

今日、私の至福はここで終了していた。
ここから先、薄暗い歩道の先には、想像超えた出来事が待っていた。
  1. 2016/02/02(火) 10:45:34|
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